ジェンダフリー企業戦士【ひとりで百物語居酒屋】

一人でコチコチとやっていた【ひとりで百物語】が、ネット上では【ひとりで百物語居酒屋】へとなりました。

【ひとりで百物語居酒屋】第11話・件の蝋燭

【ひとりで百物語居酒屋】第11話・件の蝋燭

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だいたいブログに書く話は、その場でお願いするか、後で電話などで許可をもらっている。
この話は全く違う話の許可をもらうために電話した時に聞いた話である。
大阪市内に住むマダムの話である。

小柄でふくよかな姿の彼女は、子どもたちに囲まれて草木の話などをする可愛らしい日常を送っている。
そんな彼女の生まれた時代は、日本で様々な映画館や劇場ができ始めた頃である。
話は平成の出来事らしいが、話してくれた人は戦争も経験した世代のマダムである。

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「臣蔵さん、お葬式ってやっぱり不思議ねぇ。」
と、電話の向こうで話す声。
「つい十年ぐらい前の話なのだけど、昨日のことのように思い出したわ。」


マダムの年齢になると、次々に仲良しの仲間・ご近所さんなどが亡くなる。
それが淋しいという話題が始まり。
葬式の中でも、本当に仲良しだった友人の葬儀は身に染みるのだと言う。

「それでね。私はお通夜にしか行けなかったの。」
順番にお焼香をしている時に起きた。
どこぞの住職だろうお坊さんがお経を読む声が響いていたそうである。

ジジ、ジ、ジジジ、ジ・・・

お焼香をして、手を合わせた時に、虫か何かが蝋燭の火に飛び込んだような音が聞こえたと言う。
フッと蝋燭が燃える方向へ目をやると、
「別に虫などは飛んでもいないし・・・」
と思った瞬間に、マダムは目を見張った。

蝋燭の日が縦に伸びたのである。
瞬間、葬儀会場が少しザワついた。

ジ、ジジ、ジジジ、ジ・・・

徐々に葬儀会場がザワつきが大きくなる。
お坊さんは読経を続ける。

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どんどん蝋燭の火が縦に伸びる。
ただただ、お坊さんは読経を続け、葬儀業者は静かにたたずんでいた。

もしかするとご家族には、葬儀の後に何か説明があったかもしれない。と思う。
葬儀業者は静かに、冷静に対応しなくてはいけないので・・・見事な対応だと思う。

そして明らかに、50cm以上にはなっていたと、マダムは言う。

「本当に長生きすると、たまに見かけるのよねぇ。」
電話の向こうで、懐かしい昔話をするようにマダムは言った。
「あの時、臣蔵さんの知っているHさんもご一緒だったんですよ。彼女もビックリしてたわね。」
ウフフフフフフ・・・とマダムは電話の向こうで笑った。

 


その前後に、別に何か特別な出来事があった訳ではないらしい。
ただ「蝋燭の火があり得ないぐらいの大きさになった」というだけの話だ。
ただ「参列者や葬儀業者やお坊さんが目撃した」というだけの話だ。

いくつかこう言った話は耳にするが、きっと何かのメッセージがそこにあるような気がする。
この話にも何かのメッセージがあるはずだ。
それが分かるようになったら、どうなるのか・・・と考えると、儚い気持ちになる。

【ひとりで百物語居酒屋】第10話・夜間機動警備の洗礼

【ひとりで百物語居酒屋】第10話・夜間機動警備の洗礼

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警備員の怪談話はたまに耳にする。
ただこの夜間の機動警備は普通の警備員と違って、通常の夜間パトロール以外に・・・機動警備。すなわち緊急時にはそこへ駆けつけ、警備する。少しだけ特殊な業務を担っていた。

 

この機動警備に女性が正式登録したのはまだ2人目などという時代の話である。
そんな警備会社に勤務していたOさんの話。

 

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Oさん・・・僕が大阪の山エリアに住んでいた頃からの友人である。
現在はステーキ・ハウスでウエイトレスをしている、明るくパワフルな女性である。
そんなOさんとケーキ食べ放題という冒険に出たとき、ひょんな話の流れから怪談が始まった。

 

この日、いくつかの収穫があった。
その中で「そんな話、ホンマにあるんや」と感じたものを紹介したい。

 

Oさんの見た目は本当に、女性らしい女性で「放っておけないタイプ」である。しかし、おっとどっこい・・・あの夜間警備の中でも特殊部隊といわれる「夜間機動部隊」に所属していたぐらいに、よく訓練を受けた女性なのだ。
そんな彼女が日本で2人目の女性機動警備隊員として、ある部隊に所属した。

 

所属初日は、クソ暑い夏だったという。

 

「今日から、ココに女性隊員が配属されるぞ~!」
暢気にニコニコと笑いながら、隊長と呼ばれる初老男性が言った。
明らか、気のいいお祖父ちゃんのような人が隊長。
鋭い眼光をした副隊長。
元IT企業勤務の班長。現場で叩き上げの隊員、自衛隊上がり・・・などで構成された班。
「よろしくお願いします。」
まだ初々しかったであろうOさんは、そう言うと業務の洗礼を受ける。

まずは副隊長は元レーサー。
その彼と担当エリアをくまなく車で案内され、夜遅い山奥や住宅街をカーチェイスばりに走る車に乗せられる。
駐車場に戻ると、元自衛隊員が駆け寄り「大丈夫?」と尋ねて来た。
「あぁ。この子は平気やわ。」
副隊長はそう言いながら、車から降りて来た。
駐車場の出入り口で立って待つOさんは、ケロッとしている。」
「たいがいはビビリ上がるねんけどなぁ?あの住宅街の道でも、暗闇でも、笑って話しとる。」
「ええ!!あの道でやったんですか?」
自衛隊員が驚く。
「ぼ、僕でも、青ざめたのに・・・。」
「何を言うてはるんですか?副隊長は元レーサーなんでしょう?」
そうニッコリ笑って、防御用の防弾チョッキなどを抱えてOさんは事務所に戻った。

 

「あぁ・・・お帰り。アイス食べる?」
隊長は座席でアイスを齧って、山とある昼間の警備員たちの記録を見ている。
「いえ・・・お茶飲みます。」
と若干、田舎にあった警備会社なので、事務所は比較的ゆったりした時間が流れる。

そんな平和的な時間もあったり事務所が、凍りつく瞬間がある。
緊急を知らせるサイレン音。
発信信号の種類により、火事や不法侵入がある。
田舎であっても、毎晩数回は緊張感いっぱいになると言う。

 

入隊して2~3週間経つ頃。
Oさんにも巡回パトロールのいくつかのパターンを教えられ、そこのどれかが当番制で回るようになった。
ただ隊長や副隊長がいる時は必ず、「Oちゃん、C担当してね。」とニコニコしながら、Oちゃんに自分たちのパトロールカーのキーを渡す。

巡回パトロールとは、いくつかの施設をある時間になったら、順番に巡回する。基本的には、「自分の車」が与えられた隊員が行うものだ。
そして、後にこのCと言われている巡回パトロールが新人最大の登竜門となっていることに気づく。
その中に幼稚園と体育館があった。

 

まずこの体育館は山の麓にある。
そこに到着する頃、だいたいは近くの役員さんのおっちゃんかおばちゃんがいる。
「確認したら鍵閉めて、返却しておきますよー。」
と、いくつか話して後を請け負うことがほとんどなのだが、たまに人がいないことがある。
巡回が遅れてそうなる時もあるし、いつもの時間でもいない時もある。
「まぁ、地域の体育館ってこんなものよね。」
と、Oさんは深く考えずに、巡回して鍵を閉めて次に行く。

 

そんなある日の体育館は、明かりがついて、扇風機もついて、窓も開いた状態だった。
「あれ?」
だいたいは閉めかけているか、半分閉まっているか、完全に閉まっている。全部が使っている状態になっていることは・・・・・ない。
Oさんは、首を傾げながら体育館横の駐車場に車を停める。
そして、体育館の窓を閉め、舞台裏や奥の控え室だろう部屋やロッカールーム・トイレなどを確認して行く。

 

誰もいない。

 

置くから順番に電気を消して行き、扇風機を止めながら、窓を閉めて行く。

 

トントン・・・ドド・・・キュ・・・

 

「ん?剣道?」

 

剣道の踏み切る足音のような?
「空耳かなー?」と思いながら舞台裏の確認ついでに、舞台上から体育館の様子を見た。

 

「あぁ・・・」

 

剣道の防具を付けた一人が練習と言うか、見えない誰かと試合をしている。でも見えない誰かも、防具を付けた人も、この世の人ではない。
Oさんは見なかったことを決めて、スタスタといつもの業務をし、最後は体育館の両側の窓を閉めながら、出口へ向かう。

 

無論、その間・・・剣道の試合は続いている。

 

黙々と業務をこなすOさん。
そして、最後の窓を閉め・・・出口に立った時にOさんは一礼して電気を消した。
そんなことがこのCの巡回コースの体育館では、月に数回ある。

 


「Oさん、あのコース・・・平気?」
「何がですか?」
「えっと・・・体育館とか・・・」
身長180を超えている大男で、元自衛隊員の男が訊ねる。
「あの剣道マンですか?」
「あああ!!やっぱり・・・・・」
ゲッソリした顔をする元自衛隊員。
「別に害ないやないですか?練習試合か何かしてるだけでしょ?」
「え!?ぼ、僕、ダメやねん。」
「苦手な人はそうでしょうねぇ。」
同情するOさん。
「苦手なんもあるけど、僕、あの剣道の防具つけてるヤツに追いかけられてん。」
「追いかける?それって・・・体育館の出入り口で礼してます?」
「え?」
「いや・・・一礼ですよ。」
会話が止まった。

 

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「ほ、ほんなら・・・あの幼稚園は?」
気を取り直して、元自衛隊員はOさんに訊ねた。
「何もないですよ?」
「ほ、ほら・・・あさがお組の所の・・・」
「あー・・・」
「僕、あそこでも追いかけられてん。」
さらに同情するOさん。
「よっぽど何かしてません?」
「と言うか、Oさん・・・凄いね。」
「いえ・・・私、無視しかできませんから。」
と乾いた笑い。

 

ある私立幼稚園で、園児が力いっぱい元気なのが印象的なところだ。
昼間は・・・。
そこもCの中にある。
園内の建物が2つに別れており、真っ暗な夜中に全部懐中電灯だけで巡回するらしい。何事もなく終われば、巡回簿にチェックをし、サインをする。
このあさがお組さんはその巡回途中の中盤にある教室だった。

 

コツコツ・・・1つ1つの教室をチェックする。
コツコツ・・・トイレなどもチェックする。
コツコツ・・・

 

「あさがお組」と書かれ、あさがおのイラストが書かれた扉。
建物の一番奥にあり、出入り口が2つある。奥の扉を越して左に曲がると階段だ。
その角を曲がろうとした時、なぜか園児を連れたお母さんが視界の隅に入る。残りの巡回が終わるまで、ずっとついて回る。

 

コツコツ・・・もう1つの建物の1つ1つの教室をチェックする。

 

コツコツ・・・もう1つの建物のトイレなどもチェックする。


コツコツ・・・

 

ずっとお母さんは園児を連れて歩く。

 


「って、それだけですよ?」
アッケラカンとOさんは元自衛隊員に言った。
「え?」
「後ろをついて歩くだけで、園から出ないでしょ?」
「オッサンは?用務員のオッサン!!」
「あ・・・入り口の?」
「う、うん・・・」

 

この巡回簿がある所の近辺で、出るらしい用務員のオッサン。
「最初の建物の1階だけで、何もないでしょう?」
「ええええー!!僕、あのオッサンにも追いかけられた!!」
「よっぽど怖かったんですねぇ。」
自衛隊員は、ちょっとムッとしていた。
「無視ですよ。無視!!そもそも、そんなことを気にしてたら、仕事になりませんやん?」
「はいはーい。もういいでしょー。」
ニコニコ笑いながら、お祖父ちゃんな隊長が缶ジュースを持ってやって来た。
「僕も副隊長も、みぃーんな経験して今があるから・・・ね?」
と言いながら、「はい。はい。」と缶ジュースを渡す。

お礼を言いながら、Oさんは、
「隊長・・・それよりあの幼稚園はどの教室も子どもでいっぱいの方が怖いですし、胸が痛いです。」
「あはははははは。やっぱり、Oちゃんは知ってたんやねぇ。」
いつも制服姿に草履か長靴姿の隊長は、腰に鎌をぶら下げて夜の駐車場へ向かう。
「毎度の不法侵入があったから、僕が行って来るわ・・・休憩が済んだら、事務所に戻って、仲良くね。」
後姿に手だけ振って返答をする隊長。
それを見送る元自衛隊員とOさん。

 


ケーキをモグモグしながら、Oさんは僕に笑いながら話してくれている。
「ホンマ、あの隊長はクワセ者やわ。お陰であの幼稚園専属みたいに回らされたし。」
何年も経っているのに愚痴るOさんは、ケーキ手へ伸ばす。
「それって、まだ続きあるん?」
僕も2回目のお替りをしたケーキを食べている。
「あるよー!!って、そのケーキは何ケーキ?美味しそう・・・」
「え。聞きたい!!コレはナンとかチーズって・・・美味しいよ。取って来ようか?」
「次行くからいいわ。今はケーキに比例する体重が一番怖いけど、食べるわ。」
「う、うん・・・つか、隊長の腰に鎌・・・」
突っ込みも聞き流し、Oさんは残りのケーキを食べていた。

 

(終話)

【ひとり百物語居酒屋】第9話・舞台女優たちの根性

【ひとり百物語居酒屋】第9話・舞台女優たちの根性

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関西を中心に女性ばかりの歌劇団がある。
そこに伝わっている話だそうだ。

演技派な女優として、名を馳せ始めていた女優さんから聞いた。
その舞台仲間だろう女優たちからも聞いた。
どうやら、そこに伝わる有名な話らしい。

 

そんな彼女たちから聞いた話である。

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話の進行役のHさん。
現在の彼女は一見上品に見える、おもしろいおばちゃんだ。
もう引退して十何年も経過している。

 

ただ・・・たまに、昔の仲間と舞台などをするのだが、「流石!」と口から出てしまうダンスを見せる。
そんな稽古直後、稽古終わりの女優たちが集まる居酒屋。

 

「オミゾー君、この中に好みの女性っていないのぉ~?」

 

よ、酔っとるがな・・・。
僕の心の声がする。
とにかく呑む量もハンパない集まりの「呑み会中盤」に、呼び出されて飛び込んでしまった。

 

「あぁ・・・ねぇ・・・」
ビールを頼んで、誤魔化す。
「女より、怪談の方が好きだったりして。」
誰かがそう言うと、皆が笑った。
「どっちも大好物ですよぉ~。」
サラっと流すと、Hさんから話が飛び出した。

 

「今日もマイマイは絶好調やったねぇ!」
このマイマイさん・・・噂はかねがね聞いていた霊媒体質かつ吸着力が半端ない方だ。
ワクワクする僕は、それを隠すかのようにしてタバコに手を伸ばす。
「そうなんですか?」
シレっと聞いてみる。
「ホンマやわぁ。お稽古、見にきたら良かったのにぃ~。勉強になったかもしれんでぇ。」
「アカンよ。オミゾー君は、私らより彼女しか見てないと思うからぁ。」
誰かと誰かが言った。
「あははははは。仕事やったんで、残念ですわぁ。」
グビグビとビールを呑んだ。
「で、絶好調って・・・何があったんです?」
中ジョッキを置いて、改める。
「そうそう!」
と、ようやく聞き出せた。

 


年末の舞台に向けて、彼女たちは「お稽古」と呼んでいる猛特訓をする。
そんなお稽古が今日もあり、あるダンス・スタジオを借り切っていた。
昼過ぎから夕方遅くまでのレンタル時間。
始まる1時間前には、ほとんどのメンバーが揃うが、遅れて来るメンバーも勿論いる。「流石、元舞台女優!」と1時間前のスタジオ入りには、尊敬する僕。
各々は準備として、ストレッチなどを1時間かけてするそうだが・・・マイマイさんは始まるギリギリにスタジオ入りしたそうだ。

 

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「何か、頭痛くない?」
着替え終わったマイマイさんがスタジオに入り、ストレッチを始めようとした時に誰かが言った。
「風邪?」
「ううん。急に頭痛が・・・」
一人が座り込む。
またスタジオの奥でも似たような会話をして、一人座り込む。

 

「あ!」

 

皆が現役だったころ、皆を率いていた一人が声を上げる。

 

「もしかして・・・?」
そう言うかどうか、
「またぁ?」
マイマイさんと同期の一人が声を上げた。
「ちょっと、アンタどこ寄って来たん!?」
「あー・・・マイマイか。」

 

そんな会話をしていると、マイマイさんの後輩に当たる集まりから悲鳴が上がる。
「ちょ、ちょっと・・・先輩・・・」
何かが見えたか聞こえたのだろう。

 

 

ガタン!

 

 

端に固めてあった荷物の1つが落ちる。

 

 

パチン!

 

 

電気の一部が消える。

 

 

当然、一気にスタジオは、騒然とした空気となる。
「ちょっと!!」
マイマイさんの同期であるHさんが声を上げ、ズカズカとマイマイさんに近づく。
そして、Hさんはマイマイさんの背中を2~3回叩く。

 

無論、お稽古開始とならず、ノッケから休憩となったそうだ。
そのまま、Hさんはマイマイさんをどこかに連れて行った。

 

 


しばらくして、2人が戻る。
何事もなかったように、お稽古開始。
で、この話を聞いたお酒の場となる。

 

「もうねー・・・この子、現役の頃から、こんなんあるのよ。」
「へ、へぇ・・・。」
現役の頃からって・・・もう20年以上前から?と考える僕。
そんな会話の中、バツが悪そうな、不服そうなマイマイさん。
「皆さんは、平気なんですか?」
気を取り直して、生中を注文してから訊ねてみた。
「そんなん気にしてたら、お稽古が疎かになるしねぇ?」
「連れて来るなら、生きてるお客にして欲しいわ!」
などと、言いたい放題だが、決して皆はマイマイさんを嫌っていないと思いたい。

 

ただ話の終わりに全員一致で、「こんなことぐらいで、舞台に響かせる訳には行かない。」と酒を飲みながら口にしたことに驚いた。
どうやら、根っからの女優はそういう根性がどこかにあるらしい。


(終話)

【ひとりで百物語居酒屋】第8話・定番の姿

【ひとりで百物語居酒屋】第8話・定番の姿

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今夜は愛媛県のとある旅館の話を書くことにした。
僕の知人、A美さんの話だ。彼女は×1(バツイチ)な岩下志麻似の女性である。

出会ったのはある大阪府内の商店街の中にある不動産屋だったのを覚えている。
彼女は僕の作るツマミが好きと言う、奇特な人だ。そんな彼女が数年振りに帰郷した時の話。

チューハイ片手に語る彼女の話は以下の通りだ。

 

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当時の彼女は離婚して、1年ぐらいだったと思う。
新しく出来た彼と一緒に帰郷することになった。
まだ幼い息子は確か2歳か3歳だった。新しい彼は、確かバイク好きな人だ。

 

バイクに普段から乗る彼が運転する車は、とっても安全運転だったのを僕は覚えている。そんな彼とA美さんは幼い子どもと3人で愛媛県のとある場所へ、夏休みに帰郷した。
A美さんの地元から少し離れた場所にある海辺の町に、宿を予約していた。
若干、バブリーな時代に建てられたであろう建造物。1Fはお土産屋などもあり、シーズンと重なって人が多かった。

 


息子が誕生して、初めての海に連れて行ったり。
A美さんの同級生と会ったり。A美さんは、嬉しそうに語ってくれた。
本当に楽しい旅行を過ごした最初の夜。

 

彼は運転と気疲れなのか、いつもより幼い息子と一緒になって眠ってしまった。
二人の間にはさっきまで遊んでいたヒーロー物の人形がいくつか転がっている。
A美さんはそんな二人を微笑ましく感じながら、人形を片付け、翌日の準備をして床に就いた。とても幸せを感じる時間だった。

 


夜も更け。
彼らは眠っている。もう少ししたら、朝日が昇ろうとする時刻が近付いている頃。
急にA美さんは目が覚めたと言う。

 

「疲れているはずなのに、おかしいなー?」と感じながら、横に眠っている息子と彼へ目をやった瞬間、A美さんは自分の目を疑った。

息子の向こう側にいる彼が仰向けになり、眉間にシワを寄せて眠っている。
いつものごとく、布団類をめくって眠る彼に苦笑いしたA美さんは瞬間、凍りついたと言う。

 

え!?


疑った。
A美さんの目に映ったのは、彼の頭の上位に正座している白い着物姿の女。
その女は真上から彼を覗き込むようにして、何やらブツブツ呟いている。
明らかにこの世の者ではなかった。

 

「ちょ、ちょっと・・・」
A美さんは声にならない声を出そうとした。

 

女は黒くて長い髪をしていた。
どんどんその顔を彼へ近づけて行く。
何も出来ずに、ただただ光景を見つめるしかないA美さん。

 


「ぬぁあああああああああっ!」

 


彼が急に大声で叫んで、飛び起きた。
白い着物姿の女は、その大声と共に消えた。
どれだけの時間が流れたのか分からない。
A美さんは、全身汗だくになっていた。

 

「いってぇー・・・・」

 

彼は胸を押さえながら、起きるとそう呟いた。

 

ビックリするA美さん。
彼は胸を押さえながら、起きた。

 

ビックリするA美さんに彼は「何なんや?この旅館は・・・」とたずねたが、A美さんは何も言えなかった。

 

そして、それがA美さんの見た最初で最後の不可思議な光景で。
A美さんと彼との最後の思い出になった。


チューハイを持ったA美さんは
「やっぱり・・・アレよね。幽霊って白い着物なんだな、って思った」
と、グビグビと飲み干した。

 

終話

【ひとりで百物語居酒屋】第7話・地下鉄

【ひとりで百物語居酒屋】第7話・地下鉄
2015-12-28 00:07:41

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松井さん(仮名)と出会ったのは、今から3年ほど前。
綺麗としか表現しようのない元舞台女優で、現在はダンススクール講師である彼女は「妙な瞬間話」が豊富なアネキである。
そんな松井さんの豊富な「妙な瞬間話」。
その中から、許可をもらった【とある駅の話】を書いてみようと思う。松井さんの休憩時間中に、彼女から飛び出した話。

どこの駅かは詮索せずに、読んでやってください。
ただ言えるのは、大阪府内の駅の話と言うことだけです。

2015-12-28の復刻版です。

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松井さんと出会ったのは、ある企画会社の企画室だった。
僕はそこで「経費浮かせのカメラマン」として緊急招集され、彼女はある商品のモデルとしてそこの企画室を訪れた。


つまり、カッコイイ・綺麗な女なのである。


打ち合わせも適度に終了し、商品準備の間の休憩時間。
僕はカメラ準備をしようかな?と席を立とうとした時に事務員さんがお珈琲を淹れて持って来てくれた。
で、絶妙なタイミングで松井さんと二人っきりになった。

「ところで、オミゾーさん?」
キレイな人と二人っきりで話すのは得意でもないので、手元に置いていたタブレットで検索していた。
「はい」
検索の指を止めて、松井さんの方を見た。
「Tさんから聞いたんだけど、オミゾーさんの怖い話が好き?」
ドキン!とした僕が情けない。


何となく肯定の返事をしたのは覚えているが、ハッキリと何を話したか覚えていない(笑)。
「私・・・色んなスタジオとかに行くんだけど・・・」
何かの流れから、松井さんは話始めた。


松井さんの話は以下の内容である。

 

月に2度の契約で、ダンススクールへ講師として行っている。
いつも終わりの時間が若干バラバラなので、時間にゆとりを持たせていた。
ただそこへ向かう前に、毎度お馴染みになっている(何かの)事務所に挨拶をしてから向かっている。
しかしその日に限って、松井さんはお馴染みの事務所に誰もいないと聞いていたらしい。1つ手前の駅で降りて寄っているのだが、そのままダンススクールの最寄り駅へ向かうことにしたそうだ。


「私もビックリしたんだけど…」
と、松井さんはちょっと納得いっていない口調だった。
「ホラ…乗り換えに●●駅の長い道のりを歩いて、あの階段を下りたのよ。体力作りのためにね。」
ふんふん。あの階段ね。
と頷きつつ、「あの階段」と呼ばれた階段を思い出す。


「話は階段じゃないわよ?」
ケラケラと松井さんは、僕が腕組みしながら頷いている姿を見て笑った。
「あー!それって、先読みの楽しみが!!」
僕は年甲斐もなく、膨れたフリをしてみた(笑)。
「そんなに焦ってると、モテないよ。」
と、付け加えて…ニヤニヤとする。
「そこはいいです。触れないで行きましょう・・・話を続けてください。」


「あはははははは・・・」
松井さんの息抜きになりつつあるのが、悔しいモテ無さ度。
それはいいとして…松井さんは話を戻した。
「でね、●●線のベンチに座ったの。そこそこ人がいるのに、誰も座ってなかったから。」
それって、マズイ・パターンですよ。
と、心の中で僕が呟いた。
自慢できない、僕の統計上…無意識でほとんどの人間が避けている所は、あまり宜しくない事がほとんどだからだ。

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ベンチに座ってからね…と話を続ける松井さん。
「その時は台本を見てたら、誰かが密着して座って来たの。ちょっと気持ち悪かったからズレたんだけど、微妙にズレてもピッタリと寄って来るし…電車もすぐに来ると思ったし、面倒だったから放っておいちゃった。」
あっけらかんと言う。

つまり・・・。

ジリっとズレてみる。
ピタッ・・・。

「気持ち悪い・・・」と感じた数秒後。
ジリっとズレてみる。
ピタッ・・・。

またまた・・・「気持ち悪いって!」と感じる。
ジリっとズレてみる。
ピタッ・・・。

そんなやり取りを2~3回したと言う。
「それって、立ち去った方がイイよねー。パターンじゃないですか?」
「そうなんだけど、台本を見ているフリして横目で見たら…誰もいないのよねぇ。」
松井さんはそこまで言うと、手元にあったカップへ手をやった。
「不思議ですよねぇ。」
オチかぁ…と思った瞬間、松井さんは言葉を続けた。


「で、電車が来るナウンスがその直後に流れて、私も立ち上がろうとした時にね」
まだ、続きがあったのかっ!!
と、延長になったアニメに期待している子供のように歓喜の声を胸の中で上げ、僕はゴクリと珈琲を飲む。
「そのピッタリと座られた反対側の耳元で、何かボソボソと声が聞こえたから『えっ!?』って、振り向こうとしたら、腿上の台本と私の胸元の間に無表情のおばさん?みいたいな顔があって。。。ゲッ!ってなってね。」
松井さんはまた「あはははははは」・・・と笑い、
「次の瞬間には立ち上がったんだけど、到着しようとしている電車に向かってほとんどの人は歩いているし。何より、おばちゃん…いなかったのよ。」
と、謎に不納得の様子。


サラリーマンと学生ぐらいいか見当たらかった。との事で。
松井さんは…。
「もう本当、驚きで心臓はバクバクするし…身体に悪いわー」
と言いつつ、その後1本電車を遅らせて、探したらしい。
実に素晴らしい勇者である。
「出てもいいんだけど、本当に出方が変質者っぽくて…気持ち悪かった。」
と、言うことらしい。


僕は「確かに、それは生きてても死んでても、気持ち悪いな」と感じつつ、珈琲を飲み干し、手元のタブレットに目をやった。
本当にこれは松井さんのたまにある「妙な瞬間話」の1つ。
そんな話をチョコっとして、松井さんはまた真面目な顔をし…撮影の再確認を僕にした。

 

終話

【ひとりで百物語居酒屋】第6話・落ちてくる

【ひとりで百物語居酒屋】第6話・落ちてくる

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今夜は、我が家の七不思議話を書くことにさっき決めた。
本当にあの戦争を生き抜いた父には驚かされる。
我が家の七不思議は数年に渡る父子喧嘩が勃発するほど、深刻なものもあるが。今夜は僕だけが首を傾げている話をしようと思う。

と言うことで、現在進行形なのか一時停止なのかしている話。
ことの発端は当時、僕が軽い犯罪ぐらいに「アムラー」と呼ばれる女子高生をしていた。
そんな時代の話である。

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「あー!ないっ!!」
「んぁ?」
ある日、僕が大騒ぎをした。
「ないねん!!アレめっさ大事やのに」
「何ぃー?そんなに大事ならどこかにしまってないの?」
当時、僕にはかなり年上の彼女がいて・・・。
「ん~・・・っおっかしいなぁ。ココにいつも入れてあるのにぃ・・・」
ゴソゴソといつも大事なものを入れている引き出しを漁っていた。
「どっかで見かけたぁ~?」
とか言いながら、ガサゴソと探している。
彼女は「知らない」と言い、サッサと洗濯物を取り込みにベランダへ出る。
「もうちょい親身になってくれても・・・」
僕はブツブツ言っていたと思う。


で、・・・結局。引き出しの全部を見たし、探せるところは全部見た。


生まれた時に与えられ、ずっと持っている数珠があった。
あろうことか、それを・・・いつの間にか紛失してしまった!!
それもつい2~3日前まで、確か目にしていたのに。

「あっ!」
確か僕はブツブツまだ言いながら、カバンの中とかを探していたと思う。
「どうしたん?」
少し手を止めて、彼女の方に顔を向けて声をかけた。
「数珠が空から降って来て・・・」
「はぁっ!?」
言葉を遮りつつ、そう言ったことは覚えている。
「げ、厳密には、ベランダの天井からかもしれんけど」
「何?何?それって、どう言うことぉー!!」
大興奮して、彼女の手に目をやった。

!!!!!

そこには紛れもなく、僕が生まれた時からある子供用の数珠が手にあった。

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「あ、ありがとう!!」
自分の半身が見つかったみたいで、嬉しくて感動した。


そして、十年ウン経った。
ある出来事があり、僕はその数珠を「また」紛失してしまった。


それが・・・2016年。

再紛失したとなって、10年近く経過したある日。
父親を誘って、の母親の何回忌かの墓参りをしようという話になった。
僕が運転する車に老いた父親を乗せてお墓に到着。

僕は車から「お墓参りセット」を出して、父親とお墓参りへ。
そこで父親が「お前、数珠持ってるか?」と数珠ケースやらお供えやらを入れたスーパーの袋をゴソゴソして、数珠を出す。

男物の数珠が1つ。
女物の数珠が1つ。
「それはオカンのやろ?」
そこで「もういいよ」と声を掛けようとした途端。

カサッ・・・

「え!?何で?」

子供用の数珠が僕たち親子の足元に落ちる。

「待って!待って!!この前も去年もその前も・・・僕の数珠は知らん。見かけてないって言うてたやん?何で持ってるの?しかもその子供用のん!!」

母親のお墓は・・・静かに僕たち親子を見つめている。

お隣の家族なのだろうか、近くにいた人たちもビックリしている。
「知らんで、ココに入っててん」
父親が言う。
「いや・・・先月も去年も、その数珠ケースにはおとんのとオカンの数珠しか入ってなかった。それで言い合いしたやん?」
「したな・・・」
昨日買い物したであろうスーパーの袋にずっと・・・は有り得ない話。
今回も僕が大興奮して、大騒ぎをする一歩手前の状態。
「何でこの赤い数珠が入ってるん?どこから出したん?」

「いや、だからココにやなぁ・・・」

数々のお墓は、静かに僕たち親子を見守っている。

「あのぅ・・・」
近くにいた女性が話しかける。
「あ。あぁ・・・仏さんにやられましたわ」
と、僕と父親がハモる。
父親と顔を見合わせる。
横にいたご家族が笑い出す。
「ホンマ、仏さんは時々不思議なことしてくれますねぇ」
と笑った女性の目が赤い。
「そうですね」
父親はそう言い、線香の準備をする。

「私らのところにも出て来て欲しいです」
女性はそう言った。
「いや・・・困りますよ。こんな物が消えたり、ひょっこり出てきたり」
父親がそう言った。
「大丈夫ですよ。ココに来たら、いつでも会えますから」
僕が言葉をつなぐ。

「よぅお参りで・・・って言うでしょ?」
ニヤリとソックリな父子が笑う。
目を丸くした次の瞬間に微笑みながら、女性とその家族は微笑んで
「ホンマによぅお参りで・・・」
とお辞儀をして去って行った。


そして、「よぅお参りで」の後・・・幼い日々にそうしてくれたように、墓のある山寺の前で缶ジュースを親父と二人で飲む。

親父は美味そうにジュースを飲みながら、
「探し物は案外・・・落ちてるもんやで」
と意味深な言葉を残して、車に向かった。

【ひとりで百物語居酒屋】第5話・堺の企業ビルの怪?

【ひとりで百物語居酒屋】第5話・堺の企業ビルの怪?
2016-04-14 15:21:44
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今日は解禁になった話を書こう。
彼女と言うか、彼と言うか。僕と同じ類の人間…古い友人の話。
今から15~6年前の話である。
当然、友人のマサやんからは許可をもらい、書かせてもらえるようになった。

大阪の堺市と言う場所にある企業ビルに、当時のマサやんは勤務していた。

僕は企画課、マサやんは総務課に所属しており、斜め向いの席。
毎週、毎週のイベント集計に追われる。何だかんだと書類に追われるマサやん。二人とも当時は新人だった。
毎日が残業で、人がまばらになる頃になると僕たちは話し始める。それが平日の光景。

 

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そんなある日。
マサやんは少し白い顔をして、夜の10時を回った頃に自席へ戻って来た。
夜の8時過ぎからが本番。新人ゆえの現象だ。

「どこか具合でも悪いん?」
僕は集計表を片手に話し掛けた。
「ううん。」
そう答えたきり、マサやんは無言のまま書類作成の業務に入る。

数分の時間が流れ、僕はチョット心配になった。
「はい。」
机の引き出しのお菓子箱から飴を取り出し渡す。
「今日ってもう帰る?」
チラッとマサやんが僕に言う。
「あぁ、集計表を会議用にコピーしたら、帰れるで。」
そくささと、僕はコピー室へ向かう。
「じゃぁ、私もこの書類書いたら帰れるから、急ぐね」
「はいはーい。」
僕は適当な返事をして、コピー室へ。

余談だが・・・当時は二人共、女性として生活をしていた。

コピーも終わり、ホッチキス止めも終わった僕はまだ何かを書いているマサやんに言葉をかけた。
「これでもう出れるから…トイレ行くわ♪」
「え?あ…うん。」
「何?連れション?」
僕は笑いながら、トイレへ向かった。

 

この妙なマサやんの様子で、気付けば良かった。と後から悔いることになるとは…この時、僕は予想もしなかった。

 

普通にトイレを済まし、個室のドアを開けて出ようとした瞬間。
ドアの前を人が通る気配がした。
内開きのドアなので気に留めることもないのだろうが・・・。とりあえず、ドアを開ける勢いを抑え気味にした。

 

「ん?」
心の中で、疑問符が浮かび上がる。
それはそうだろう・・・そのオシャレでオフィシャル女子トイレには自分だけで、誰もいないのである。
疑問符を頭の中に浮かばせて、個室から出て手を洗う。

 

ジャー・・・・・

 

1つ挟んで、横の水道が出ている。
「ん?」
無論、そこには誰も立っていない。

 

ブォ~ン・・・・・

 

「ん?」
水道の横にある手を乾かす乾燥機が鳴る。
無論・・・・・そこには誰も立っていない。
でも透明な誰かが・・・・・いる。

 

何となくポケットからハンカチを出して拭きながら、何事もなかったようにスタスタと若干早い足取りで・・・オシャレでオフィシャル女子トイレから出た。
そう。何事もなかったんだ!!
と心で叫ぶ僕は、小心者だと笑って欲しい(笑)。

 

「マサやん!マサやん!!」
小声だけど、大声でマサやんへ話しかけた。
「やっぱ、出た?」
不安と驚きの顔のマサやん。

「アレ?知ってるの?」
「それと会社で、『マサやん』はマズイって(笑)!」
拍子抜けする。
「ちょっと、出てから話そうか?」
とマサやんは書類をファイルへ挟み込んで、片付けた。

 

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「黙ってたけどね・・・・・」
はぁー。とマサやんは溜め息なのか、息を吸い込んだのかして言葉を続けた。
「会議とか長引かない限りは、7時半過ぎたら皆いなくなるでしょ?」
「うっ・・・うん」
「ボーダーラインの時間。次の出勤時間やねん。」
夜の街を歩く二人。
僕の頭の中は「?」で山盛りになった。

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マサやんの話をまとめると次のような話だった。
7時半をボーダーラインにほぼ全社員が退社する。
ただ会議だの締め日だので仕方なく、本当に仕方なく・・・残るのだと言う。
そこのオフィスではいつからがそれが「闇の社則」となり、いつの間にか鉄の掟となっている。

ある時点から新人のうちに諸先輩方が7時までには帰る教育をしているらしい。だから、理由を知らない社員がほとんど。

ほんの数名の起業時からいる役員とお局たち、経験しても退社せずにいる勇者だけが知る・・・見えない世界の働く社員の存在。
ただそれは10人にも満たない精鋭のみが知る。マサやんはその精鋭だった。

 

そして、マサやんはその続きは僕に言ってくれなかった。


ただ僕はそんな話を聞かされ、凍ってしまい、
「へっ、へぇ~・・・」
これが当時の僕から出た、精一杯の答えだった。
無論、僕は残業になる時は7時半までにトイレを済ませるようになった。どうしても・・・の時は、近くのコンビニへトイレを借りに行った(笑)。

当時、僕は期間限定の派遣社員でその期間満了までに、何人かのバイト・派遣・正社員が入った。ただ不思議と残業したヤツらのほとんどが僕よりも先に退社して行った。
皆の退社理由は判らないが、ただ翌日から出社すらしなくなる。
そして・・・僕がそこを去った後すぐにマサやんもそこを退社したと耳にした。

ちなみに、その建物は今も大阪府堺市に現存している。

 

終話