ジェンダフリー企業戦士【ひとりで百物語居酒屋】

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【ひとりで百物語居酒屋】第2話・元気な子どももいたもんや

【ひとりで百物語居酒屋】第2話・元気な子どももいたもんや

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今から40年ほど前。
大阪市内の某区で見かけられた話である。
現在はそのエリア一帯は田畑・工場・宅地が入り組んでいる。

最初に聞いたのは、職人だった父親からだ。
「お前が赤ん坊の頃は、よう背たらって、夜に散歩したわ。ほんま、わんわん泣いて…」
と、思い出し会話をする。
「そうかぁ?」
赤ん坊だった僕も、もう四十路手前。
おじいちゃんな父親の話には、優しく応えれるようになっている。

すでに当時の景色とは大きく変わったエリアであり、40年前後の時間の流れは時効に等しいから書くことにした。
話は以下の内容である。

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当時まだ生まれて、数ヶ月の赤ん坊は病院でクセがついたのか、とにかく抱っこしていないと泣きわめく。
両親はゆっくりとご飯も食べていられないほどだったと言う。

父親が食事をしている間は、母親が。
母親が食事をしている間は、父親が赤ん坊を背負っている。
そんな父親は、母親と違い赤ん坊を背負うと母が連れて行かないぐらい遠くまで歩いて行く。
毎夜の光景。

 

そんなある日。

 

秋も深まり、冬の入り口と感じる季節。

父親は赤ん坊を背負って、毎日の通勤で通る田んぼや畑の続く1本道を歩く。
きっと返答しない赤ん坊に色々と話しかけながらの散歩。

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そのまま進むと駅に到着するのだが、その途中には墓場や昔の焼き場が残っている道。

父親にとっては、墓場も焼き場跡も「怖い」と感じることはない。

何せ岐阜県の田舎で育ち、お墓の裏山で遊び、火葬場の横で栗を焼いては食べた・・・と言う子ども時代を持つ兵だ。

何よりあの大戦を生き抜いた生命力ある人でもある。

ただ「たまに薄気味悪い日があるなぁ」ぐらいの感覚の人だ。

 

当時を振り返って父親は「あの日は寒かったな・・・」と、お茶をすする。

どのルートだったか明らかにされているような、そうでないような。

 

父親は「子どもは元気やなぁ」と、どこからともなく聞こえた子どもたちが遊ぶ声で思った。
そんなことを感じながら、暗い田んぼの方へ目をやる。

そこには、半袖(中にはランニング・シャツ)に半ズボンの子どもたち数人が虫かごと網を持って走っている。
「はよぅ帰らな、怒られるで」と、思った瞬間に流石の父親も気付いた。

「もう冬やで?」
赤ん坊のことはそっちのけで、父親はそんなことを感じ「あぁ・・・」と納得した。
子どもたちが闇の中にいるのに、ハッキリと見えたせいだろう。
「はよ帰りぃ。」
父親はそんな言葉を胸に、赤ん坊を背負ったままいつもの散歩道を通り、いつもの時間に帰宅した。


父親の瞼に眠っている、微笑ましい昭和な景色である。

 

終話