ジェンダフリー企業戦士【ひとりで百物語居酒屋】

一人でコチコチとやっていた【ひとりで百物語】が、ネット上では【ひとりで百物語居酒屋】へとなりました。

【ひとりで百物語居酒屋】第4話・西の留守番電話

2016-01-01 13:22:34
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このブログはずっと以前の「百物語居酒屋」というタイトルの頃に書かせてもらった復刻版の話である。

西さんと出会って半年ぐらいの頃の話。
姐さんと慕うチョット前の出来事だ。当時は仕事仲間で、僕より一年だけ職場で先輩。年も僕より1つ上だった。
その頃、恋人と別れたらしい西さんはバリバリの仕事人間でラボと呼ばれる研究実勤務。僕は日本各地を飛び回る営業マンだった。
そんな若かれし僕たちが経験した気持ち悪い話【携帯の留守番電話】である。

暇つぶし程度に、読んでやってください。

 ※「西さん」は偽名です。
  「オミ君」は西さんが僕を呼ぶときの呼び名です。

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今も覚えているのは、オンボロ営業車。
当時働いていた会社の営業マンは主に4人。かなりハードスケジュールで、日本各地をそれぞれの地方ごとに、エリア担当ととし割り当てられる。そのエリアを車で移動し営業(御用聞き)する。まさしく、現代の行商だった。
西さんは、そんな会社の研究・開発部門に所属していた。

 

ある日。
僕のプライベート携帯が鳴る。
西さんからだ。
「はいはい。中臣ですが…」
「オミ君?さっき電話くれた?」
「さっきまで奈良の得意先さんの所で話し込んでいたんで、電話してないですよ?僕の番号ですか?」
「それがねぇ…履歴はないんだけど、留守番電話が入ってたの。てっきりオミ君かな?って」
僕はお得意さんの所から出て、すぐの国道手前にある農道脇に車を止めた。
「いやいや。流石に何か残るでしょ?」
でないと、怖いですから。と僕は笑った。

その後はきっと、何と言うことなく世間話をしたんだろうと思う。
僕も細かいことは覚えていない。

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時が流れ、そんなことを忘れたある日。
僕と西さんが本社会議で一緒になった。僕たちは二人で会社が用意したホテルのロビーで、コーヒーを飲みながら迎えを待っていた。
僕たちはテーブル挟むようにして座り、西さんはその辺にあったのだろう、何かのカタログを。僕は会議で使うらしい資料を読んでいる。
何てことはない、ビジネスホテルの風景である。

 

次の瞬間、西さんの携帯が鳴った。

 

「お迎えですかね?」
と、資料から目を離し、西さんに言う。
次の瞬間、何とも言えない表情で西さんが携帯を取り出した。
「また…」
と言って、携帯の画面を僕にみせる。
それとほぼ同時に携帯の呼び出し音とバイブとランプが止まる。
「あれ?着信ありましたよね?」
その言葉の返事代わりに、携帯の表示画面を僕へ西さんは見せた。

 

表示は・・・・・
[着信1・(ブランク)・留守番電話にメッセージ1]
となっていた。
相手の名前や番号でもなく、番号非通知でもなく、空白なのである。

 

僕の心の中に「留守番電話にメッセージ1とは?」と疑問が浮かぶ。
「これって…」
いつだったか覚えていないが、西さんからの電話を思い出した。
「またまたぁ~」と笑い、「ワン切りっすかね?」とコーヒーに手を伸ばす。

「たまに『ま・だ』あるの。」
西さんはそう言うと、僕にそっと携帯を渡し、
「再生してみて…」
とつぶやいた。
僕はコーヒーを一口飲んで、携帯を受け取った。
そのまま、遠慮がちに再生した。

 

『新しいメッセージが1件。最初のメッセージ…ピー…ザザザザー…ザザザ・ザザ・ザザザー…プ・プープープー』

 

「?」
眉間にシワを寄せた僕。
「ね?変な電話でしょう?」と表情だけで、訴える西さん。

 

本当に映画などに出てくる、あの何とも言えない雑音だらけの音。
ノイズや音飛びしながら聞こえる「新しいメッセージが1件。最初のメッセージ…」と言うガイダンス。
ラジオのチューナーが合いかける手前の様な砂嵐の音みたいな、雑音だらけの録音みたいな。。。

僕たちは携帯をテーブルに置いて、ホテルのロビーで取り残されたようになった。