ジェンダフリー企業戦士【ひとりで百物語居酒屋】

一人でコチコチとやっていた【ひとりで百物語】が、ネット上では【ひとりで百物語居酒屋】へとなりました。

【ひとりで百物語居酒屋】第6話・落ちてくる

【ひとりで百物語居酒屋】第6話・落ちてくる

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今夜は、我が家の七不思議話を書くことにさっき決めた。
本当にあの戦争を生き抜いた父には驚かされる。
我が家の七不思議は数年に渡る父子喧嘩が勃発するほど、深刻なものもあるが。今夜は僕だけが首を傾げている話をしようと思う。

と言うことで、現在進行形なのか一時停止なのかしている話。
ことの発端は当時、僕が軽い犯罪ぐらいに「アムラー」と呼ばれる女子高生をしていた。
そんな時代の話である。

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「あー!ないっ!!」
「んぁ?」
ある日、僕が大騒ぎをした。
「ないねん!!アレめっさ大事やのに」
「何ぃー?そんなに大事ならどこかにしまってないの?」
当時、僕にはかなり年上の彼女がいて・・・。
「ん~・・・っおっかしいなぁ。ココにいつも入れてあるのにぃ・・・」
ゴソゴソといつも大事なものを入れている引き出しを漁っていた。
「どっかで見かけたぁ~?」
とか言いながら、ガサゴソと探している。
彼女は「知らない」と言い、サッサと洗濯物を取り込みにベランダへ出る。
「もうちょい親身になってくれても・・・」
僕はブツブツ言っていたと思う。


で、・・・結局。引き出しの全部を見たし、探せるところは全部見た。


生まれた時に与えられ、ずっと持っている数珠があった。
あろうことか、それを・・・いつの間にか紛失してしまった!!
それもつい2~3日前まで、確か目にしていたのに。

「あっ!」
確か僕はブツブツまだ言いながら、カバンの中とかを探していたと思う。
「どうしたん?」
少し手を止めて、彼女の方に顔を向けて声をかけた。
「数珠が空から降って来て・・・」
「はぁっ!?」
言葉を遮りつつ、そう言ったことは覚えている。
「げ、厳密には、ベランダの天井からかもしれんけど」
「何?何?それって、どう言うことぉー!!」
大興奮して、彼女の手に目をやった。

!!!!!

そこには紛れもなく、僕が生まれた時からある子供用の数珠が手にあった。

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「あ、ありがとう!!」
自分の半身が見つかったみたいで、嬉しくて感動した。


そして、十年ウン経った。
ある出来事があり、僕はその数珠を「また」紛失してしまった。


それが・・・2016年。

再紛失したとなって、10年近く経過したある日。
父親を誘って、の母親の何回忌かの墓参りをしようという話になった。
僕が運転する車に老いた父親を乗せてお墓に到着。

僕は車から「お墓参りセット」を出して、父親とお墓参りへ。
そこで父親が「お前、数珠持ってるか?」と数珠ケースやらお供えやらを入れたスーパーの袋をゴソゴソして、数珠を出す。

男物の数珠が1つ。
女物の数珠が1つ。
「それはオカンのやろ?」
そこで「もういいよ」と声を掛けようとした途端。

カサッ・・・

「え!?何で?」

子供用の数珠が僕たち親子の足元に落ちる。

「待って!待って!!この前も去年もその前も・・・僕の数珠は知らん。見かけてないって言うてたやん?何で持ってるの?しかもその子供用のん!!」

母親のお墓は・・・静かに僕たち親子を見つめている。

お隣の家族なのだろうか、近くにいた人たちもビックリしている。
「知らんで、ココに入っててん」
父親が言う。
「いや・・・先月も去年も、その数珠ケースにはおとんのとオカンの数珠しか入ってなかった。それで言い合いしたやん?」
「したな・・・」
昨日買い物したであろうスーパーの袋にずっと・・・は有り得ない話。
今回も僕が大興奮して、大騒ぎをする一歩手前の状態。
「何でこの赤い数珠が入ってるん?どこから出したん?」

「いや、だからココにやなぁ・・・」

数々のお墓は、静かに僕たち親子を見守っている。

「あのぅ・・・」
近くにいた女性が話しかける。
「あ。あぁ・・・仏さんにやられましたわ」
と、僕と父親がハモる。
父親と顔を見合わせる。
横にいたご家族が笑い出す。
「ホンマ、仏さんは時々不思議なことしてくれますねぇ」
と笑った女性の目が赤い。
「そうですね」
父親はそう言い、線香の準備をする。

「私らのところにも出て来て欲しいです」
女性はそう言った。
「いや・・・困りますよ。こんな物が消えたり、ひょっこり出てきたり」
父親がそう言った。
「大丈夫ですよ。ココに来たら、いつでも会えますから」
僕が言葉をつなぐ。

「よぅお参りで・・・って言うでしょ?」
ニヤリとソックリな父子が笑う。
目を丸くした次の瞬間に微笑みながら、女性とその家族は微笑んで
「ホンマによぅお参りで・・・」
とお辞儀をして去って行った。


そして、「よぅお参りで」の後・・・幼い日々にそうしてくれたように、墓のある山寺の前で缶ジュースを親父と二人で飲む。

親父は美味そうにジュースを飲みながら、
「探し物は案外・・・落ちてるもんやで」
と意味深な言葉を残して、車に向かった。