ジェンダフリー企業戦士【ひとりで百物語居酒屋】

一人でコチコチとやっていた【ひとりで百物語】が、ネット上では【ひとりで百物語居酒屋】へとなりました。

【ひとりで百物語居酒屋】第7話・地下鉄

【ひとりで百物語居酒屋】第7話・地下鉄
2015-12-28 00:07:41

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松井さん(仮名)と出会ったのは、今から3年ほど前。
綺麗としか表現しようのない元舞台女優で、現在はダンススクール講師である彼女は「妙な瞬間話」が豊富なアネキである。
そんな松井さんの豊富な「妙な瞬間話」。
その中から、許可をもらった【とある駅の話】を書いてみようと思う。松井さんの休憩時間中に、彼女から飛び出した話。

どこの駅かは詮索せずに、読んでやってください。
ただ言えるのは、大阪府内の駅の話と言うことだけです。

2015-12-28の復刻版です。

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松井さんと出会ったのは、ある企画会社の企画室だった。
僕はそこで「経費浮かせのカメラマン」として緊急招集され、彼女はある商品のモデルとしてそこの企画室を訪れた。


つまり、カッコイイ・綺麗な女なのである。


打ち合わせも適度に終了し、商品準備の間の休憩時間。
僕はカメラ準備をしようかな?と席を立とうとした時に事務員さんがお珈琲を淹れて持って来てくれた。
で、絶妙なタイミングで松井さんと二人っきりになった。

「ところで、オミゾーさん?」
キレイな人と二人っきりで話すのは得意でもないので、手元に置いていたタブレットで検索していた。
「はい」
検索の指を止めて、松井さんの方を見た。
「Tさんから聞いたんだけど、オミゾーさんの怖い話が好き?」
ドキン!とした僕が情けない。


何となく肯定の返事をしたのは覚えているが、ハッキリと何を話したか覚えていない(笑)。
「私・・・色んなスタジオとかに行くんだけど・・・」
何かの流れから、松井さんは話始めた。


松井さんの話は以下の内容である。

 

月に2度の契約で、ダンススクールへ講師として行っている。
いつも終わりの時間が若干バラバラなので、時間にゆとりを持たせていた。
ただそこへ向かう前に、毎度お馴染みになっている(何かの)事務所に挨拶をしてから向かっている。
しかしその日に限って、松井さんはお馴染みの事務所に誰もいないと聞いていたらしい。1つ手前の駅で降りて寄っているのだが、そのままダンススクールの最寄り駅へ向かうことにしたそうだ。


「私もビックリしたんだけど…」
と、松井さんはちょっと納得いっていない口調だった。
「ホラ…乗り換えに●●駅の長い道のりを歩いて、あの階段を下りたのよ。体力作りのためにね。」
ふんふん。あの階段ね。
と頷きつつ、「あの階段」と呼ばれた階段を思い出す。


「話は階段じゃないわよ?」
ケラケラと松井さんは、僕が腕組みしながら頷いている姿を見て笑った。
「あー!それって、先読みの楽しみが!!」
僕は年甲斐もなく、膨れたフリをしてみた(笑)。
「そんなに焦ってると、モテないよ。」
と、付け加えて…ニヤニヤとする。
「そこはいいです。触れないで行きましょう・・・話を続けてください。」


「あはははははは・・・」
松井さんの息抜きになりつつあるのが、悔しいモテ無さ度。
それはいいとして…松井さんは話を戻した。
「でね、●●線のベンチに座ったの。そこそこ人がいるのに、誰も座ってなかったから。」
それって、マズイ・パターンですよ。
と、心の中で僕が呟いた。
自慢できない、僕の統計上…無意識でほとんどの人間が避けている所は、あまり宜しくない事がほとんどだからだ。

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ベンチに座ってからね…と話を続ける松井さん。
「その時は台本を見てたら、誰かが密着して座って来たの。ちょっと気持ち悪かったからズレたんだけど、微妙にズレてもピッタリと寄って来るし…電車もすぐに来ると思ったし、面倒だったから放っておいちゃった。」
あっけらかんと言う。

つまり・・・。

ジリっとズレてみる。
ピタッ・・・。

「気持ち悪い・・・」と感じた数秒後。
ジリっとズレてみる。
ピタッ・・・。

またまた・・・「気持ち悪いって!」と感じる。
ジリっとズレてみる。
ピタッ・・・。

そんなやり取りを2~3回したと言う。
「それって、立ち去った方がイイよねー。パターンじゃないですか?」
「そうなんだけど、台本を見ているフリして横目で見たら…誰もいないのよねぇ。」
松井さんはそこまで言うと、手元にあったカップへ手をやった。
「不思議ですよねぇ。」
オチかぁ…と思った瞬間、松井さんは言葉を続けた。


「で、電車が来るナウンスがその直後に流れて、私も立ち上がろうとした時にね」
まだ、続きがあったのかっ!!
と、延長になったアニメに期待している子供のように歓喜の声を胸の中で上げ、僕はゴクリと珈琲を飲む。
「そのピッタリと座られた反対側の耳元で、何かボソボソと声が聞こえたから『えっ!?』って、振り向こうとしたら、腿上の台本と私の胸元の間に無表情のおばさん?みいたいな顔があって。。。ゲッ!ってなってね。」
松井さんはまた「あはははははは」・・・と笑い、
「次の瞬間には立ち上がったんだけど、到着しようとしている電車に向かってほとんどの人は歩いているし。何より、おばちゃん…いなかったのよ。」
と、謎に不納得の様子。


サラリーマンと学生ぐらいいか見当たらかった。との事で。
松井さんは…。
「もう本当、驚きで心臓はバクバクするし…身体に悪いわー」
と言いつつ、その後1本電車を遅らせて、探したらしい。
実に素晴らしい勇者である。
「出てもいいんだけど、本当に出方が変質者っぽくて…気持ち悪かった。」
と、言うことらしい。


僕は「確かに、それは生きてても死んでても、気持ち悪いな」と感じつつ、珈琲を飲み干し、手元のタブレットに目をやった。
本当にこれは松井さんのたまにある「妙な瞬間話」の1つ。
そんな話をチョコっとして、松井さんはまた真面目な顔をし…撮影の再確認を僕にした。

 

終話