ジェンダフリー企業戦士【ひとりで百物語居酒屋】

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【ひとり百物語居酒屋】第9話・舞台女優たちの根性

【ひとり百物語居酒屋】第9話・舞台女優たちの根性

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関西を中心に女性ばかりの歌劇団がある。
そこに伝わっている話だそうだ。

演技派な女優として、名を馳せ始めていた女優さんから聞いた。
その舞台仲間だろう女優たちからも聞いた。
どうやら、そこに伝わる有名な話らしい。

 

そんな彼女たちから聞いた話である。

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話の進行役のHさん。
現在の彼女は一見上品に見える、おもしろいおばちゃんだ。
もう引退して十何年も経過している。

 

ただ・・・たまに、昔の仲間と舞台などをするのだが、「流石!」と口から出てしまうダンスを見せる。
そんな稽古直後、稽古終わりの女優たちが集まる居酒屋。

 

「オミゾー君、この中に好みの女性っていないのぉ~?」

 

よ、酔っとるがな・・・。
僕の心の声がする。
とにかく呑む量もハンパない集まりの「呑み会中盤」に、呼び出されて飛び込んでしまった。

 

「あぁ・・・ねぇ・・・」
ビールを頼んで、誤魔化す。
「女より、怪談の方が好きだったりして。」
誰かがそう言うと、皆が笑った。
「どっちも大好物ですよぉ~。」
サラっと流すと、Hさんから話が飛び出した。

 

「今日もマイマイは絶好調やったねぇ!」
このマイマイさん・・・噂はかねがね聞いていた霊媒体質かつ吸着力が半端ない方だ。
ワクワクする僕は、それを隠すかのようにしてタバコに手を伸ばす。
「そうなんですか?」
シレっと聞いてみる。
「ホンマやわぁ。お稽古、見にきたら良かったのにぃ~。勉強になったかもしれんでぇ。」
「アカンよ。オミゾー君は、私らより彼女しか見てないと思うからぁ。」
誰かと誰かが言った。
「あははははは。仕事やったんで、残念ですわぁ。」
グビグビとビールを呑んだ。
「で、絶好調って・・・何があったんです?」
中ジョッキを置いて、改める。
「そうそう!」
と、ようやく聞き出せた。

 


年末の舞台に向けて、彼女たちは「お稽古」と呼んでいる猛特訓をする。
そんなお稽古が今日もあり、あるダンス・スタジオを借り切っていた。
昼過ぎから夕方遅くまでのレンタル時間。
始まる1時間前には、ほとんどのメンバーが揃うが、遅れて来るメンバーも勿論いる。「流石、元舞台女優!」と1時間前のスタジオ入りには、尊敬する僕。
各々は準備として、ストレッチなどを1時間かけてするそうだが・・・マイマイさんは始まるギリギリにスタジオ入りしたそうだ。

 

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「何か、頭痛くない?」
着替え終わったマイマイさんがスタジオに入り、ストレッチを始めようとした時に誰かが言った。
「風邪?」
「ううん。急に頭痛が・・・」
一人が座り込む。
またスタジオの奥でも似たような会話をして、一人座り込む。

 

「あ!」

 

皆が現役だったころ、皆を率いていた一人が声を上げる。

 

「もしかして・・・?」
そう言うかどうか、
「またぁ?」
マイマイさんと同期の一人が声を上げた。
「ちょっと、アンタどこ寄って来たん!?」
「あー・・・マイマイか。」

 

そんな会話をしていると、マイマイさんの後輩に当たる集まりから悲鳴が上がる。
「ちょ、ちょっと・・・先輩・・・」
何かが見えたか聞こえたのだろう。

 

 

ガタン!

 

 

端に固めてあった荷物の1つが落ちる。

 

 

パチン!

 

 

電気の一部が消える。

 

 

当然、一気にスタジオは、騒然とした空気となる。
「ちょっと!!」
マイマイさんの同期であるHさんが声を上げ、ズカズカとマイマイさんに近づく。
そして、Hさんはマイマイさんの背中を2~3回叩く。

 

無論、お稽古開始とならず、ノッケから休憩となったそうだ。
そのまま、Hさんはマイマイさんをどこかに連れて行った。

 

 


しばらくして、2人が戻る。
何事もなかったように、お稽古開始。
で、この話を聞いたお酒の場となる。

 

「もうねー・・・この子、現役の頃から、こんなんあるのよ。」
「へ、へぇ・・・。」
現役の頃からって・・・もう20年以上前から?と考える僕。
そんな会話の中、バツが悪そうな、不服そうなマイマイさん。
「皆さんは、平気なんですか?」
気を取り直して、生中を注文してから訊ねてみた。
「そんなん気にしてたら、お稽古が疎かになるしねぇ?」
「連れて来るなら、生きてるお客にして欲しいわ!」
などと、言いたい放題だが、決して皆はマイマイさんを嫌っていないと思いたい。

 

ただ話の終わりに全員一致で、「こんなことぐらいで、舞台に響かせる訳には行かない。」と酒を飲みながら口にしたことに驚いた。
どうやら、根っからの女優はそういう根性がどこかにあるらしい。


(終話)