ジェンダフリー企業戦士【ひとりで百物語居酒屋】

一人でコチコチとやっていた【ひとりで百物語】が、ネット上では【ひとりで百物語居酒屋】へとなりました。

【ひとりで百物語居酒屋】第3話・天を読む犬

【ひとりで百物語居酒屋】第3話・天を読む犬

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平成と呼ばれる時代に入ってからのお話。
こういう不思議な系統の犬は、何頭か出会ったことがある。
そんな犬たちの中でも、僕のお気に入りの犬の話をしたいと思う。

実際にその場面を見た訳ではないが、僕の「英語の師匠」という女性から聞いた。

当時、その女性の家には20頭近くの犬がいた。
僕がその女性の家に行くと、いつも「ドドドドド・・・」と言う地鳴りと共に犬の大群が押し寄せてくる。
全てが雑種である。

僕は吠えられることもなく、犬たちの歓迎を受ける。
その隙間にニャンコも踏み潰されないようにして、お出迎えに来てくれる。
「はいはい・・・」
奥から、女性が声をかけながら出てくる。
それまでは「僕vs犬の大群による歓迎」の戦いだ。

そして、英語の授業開始だ。

その間、順番に犬たちが僕の横にやって来ては「匂い検査」をする。
僕は授業を受けながら、1頭1頭の耳の後ろや頭を撫でてやる。
その中で、妙に気になる犬がいた。
名前は「ポン子」・・・単純に「狸に似ているから、ポン子」なのである。

特別な何かをする訳ではないが、僕は微妙に「妖気」を感じた。

と書くとカッコイイが、本当に絵本から飛び出したみたいな「狸」であり、芸当もお酒に酔っ払ったような「タヌキ踊り」だけだ。
愛嬌があった。

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 。

 

時は流れ・・・。
そんな犬たちを収容できるぐらいの「山小屋」を南大阪の山奥に購入した女性。
授業が静かになる。
ちょっと淋しかった気もしたが、学生ではなくなった僕もいつの間にか、そこを卒業した。


それからどれぐらいの時間が流れたのであろう。
ある日、その女性とお茶をしている時にひょんな話題から「気になった犬」について、話した。

「僕はポン子が好きでした。何となくですけど・・・」
「なかなか気持ち悪い子を選ぶわね。」
「え?普通の犬だったと思います(笑)。ただチョット狸寄りでしたが、あのポン子踊りは好きでしたよ。化かす狸が見破られたときの姿っぽくて・・・」

「そうねぇ・・・」
コレは驚いたと、女性は目を丸くした。
「あの子はね、山の中で亡くなったのだけど・・・」
と、女性は話し始めた。


亡くなる前日、夜のいつもの散歩へ(*)全員で出かけたらしい。
そして、その女性が山奥にあるダムへ犬たちを解き放つ。
すると、犬たちは各々が好きなスタイルで散歩する。ただ物凄く脱走癖が有・幼い・年寄り・怪我をしている犬たちは長いロープ付きだが。まぁ、まとめ役の犬もシッカリいるので、大丈夫。

「お!ポン子は、今日は側にいるの?」
女性はそう話しかけて、散歩をする。
いつもは「自由に散歩組」のポン子は、女性の横を寄り添って歩いていた。
どれぐらい回ったのだろうか、「そろそろ帰宅」と言う頃。

ポン子は山特有の「満天の星空」を見上げていた。

「帰るよ!」
女性は言葉をかけた。
ポン子はそんな声をよそに、じっと星空を見上げていた。

当時、女性は大阪市内から山奥にある犬たちの聖地である「山小屋」へ毎晩、1時間程度車を飛ばして通っていた。
昼間は女性のご主人が面倒を見ている。
女性は「もっとあの時にポン子と一緒にいれば良かった」と言う。

いつものように犬たちをそれぞれの小屋(小さなログ・ハウス)へグループごとに入れて行く。
ポン子は、なぜか庭に当たる敷地の真ん中で、また星空を見つめている。
珍しく、女性が小屋へ引っ張って行った。

その翌日、ポン子が眠ったまま起きて来なかったことは分かると思う。
ただ・・・ずっと「満天の星空」を見つめ続けたポン子は何を見ていたのだろうか。
何と話し、何を聞き、何を読み取っていたのであろうか。


「本当に時々、アナタは気持ち悪い子を好きになるわねぇ。あの子は犬だったけど、犬っぽくなかったもの。ちょっと、妖怪寄りと言うか・・・」
「僕はてっきり、ポン子は僕の家の子になると思っていましたよ。」
「そうねぇ・・・」
と女性は笑い、お茶を飲む。

 

(*)全員:当時の犬、全頭の意味

 

終話