【ひとりで百物語居酒屋】第11話・件の蝋燭
【ひとりで百物語居酒屋】第11話・件の蝋燭
*************************
だいたいブログに書く話は、その場でお願いするか、後で電話などで許可をもらっている。
この話は全く違う話の許可をもらうために電話した時に聞いた話である。
大阪市内に住むマダムの話である。
小柄でふくよかな姿の彼女は、子どもたちに囲まれて草木の話などをする可愛らしい日常を送っている。
そんな彼女の生まれた時代は、日本で様々な映画館や劇場ができ始めた頃である。
話は平成の出来事らしいが、話してくれた人は戦争も経験した世代のマダムである。
*************************
「臣蔵さん、お葬式ってやっぱり不思議ねぇ。」
と、電話の向こうで話す声。
「つい十年ぐらい前の話なのだけど、昨日のことのように思い出したわ。」
マダムの年齢になると、次々に仲良しの仲間・ご近所さんなどが亡くなる。
それが淋しいという話題が始まり。
葬式の中でも、本当に仲良しだった友人の葬儀は身に染みるのだと言う。
「それでね。私はお通夜にしか行けなかったの。」
順番にお焼香をしている時に起きた。
どこぞの住職だろうお坊さんがお経を読む声が響いていたそうである。
ジジ、ジ、ジジジ、ジ・・・
お焼香をして、手を合わせた時に、虫か何かが蝋燭の火に飛び込んだような音が聞こえたと言う。
フッと蝋燭が燃える方向へ目をやると、
「別に虫などは飛んでもいないし・・・」
と思った瞬間に、マダムは目を見張った。
蝋燭の日が縦に伸びたのである。
瞬間、葬儀会場が少しザワついた。
ジ、ジジ、ジジジ、ジ・・・
徐々に葬儀会場がザワつきが大きくなる。
お坊さんは読経を続ける。
どんどん蝋燭の火が縦に伸びる。
ただただ、お坊さんは読経を続け、葬儀業者は静かにたたずんでいた。
もしかするとご家族には、葬儀の後に何か説明があったかもしれない。と思う。
葬儀業者は静かに、冷静に対応しなくてはいけないので・・・見事な対応だと思う。
そして明らかに、50cm以上にはなっていたと、マダムは言う。
「本当に長生きすると、たまに見かけるのよねぇ。」
電話の向こうで、懐かしい昔話をするようにマダムは言った。
「あの時、臣蔵さんの知っているHさんもご一緒だったんですよ。彼女もビックリしてたわね。」
ウフフフフフフ・・・とマダムは電話の向こうで笑った。
その前後に、別に何か特別な出来事があった訳ではないらしい。
ただ「蝋燭の火があり得ないぐらいの大きさになった」というだけの話だ。
ただ「参列者や葬儀業者やお坊さんが目撃した」というだけの話だ。
いくつかこう言った話は耳にするが、きっと何かのメッセージがそこにあるような気がする。
この話にも何かのメッセージがあるはずだ。
それが分かるようになったら、どうなるのか・・・と考えると、儚い気持ちになる。