ジェンダフリー企業戦士【ひとりで百物語居酒屋】

一人でコチコチとやっていた【ひとりで百物語】が、ネット上では【ひとりで百物語居酒屋】へとなりました。

【ひとりで百物語居酒屋】第8話・定番の姿

【ひとりで百物語居酒屋】第8話・定番の姿

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今夜は愛媛県のとある旅館の話を書くことにした。
僕の知人、A美さんの話だ。彼女は×1(バツイチ)な岩下志麻似の女性である。

出会ったのはある大阪府内の商店街の中にある不動産屋だったのを覚えている。
彼女は僕の作るツマミが好きと言う、奇特な人だ。そんな彼女が数年振りに帰郷した時の話。

チューハイ片手に語る彼女の話は以下の通りだ。

 

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当時の彼女は離婚して、1年ぐらいだったと思う。
新しく出来た彼と一緒に帰郷することになった。
まだ幼い息子は確か2歳か3歳だった。新しい彼は、確かバイク好きな人だ。

 

バイクに普段から乗る彼が運転する車は、とっても安全運転だったのを僕は覚えている。そんな彼とA美さんは幼い子どもと3人で愛媛県のとある場所へ、夏休みに帰郷した。
A美さんの地元から少し離れた場所にある海辺の町に、宿を予約していた。
若干、バブリーな時代に建てられたであろう建造物。1Fはお土産屋などもあり、シーズンと重なって人が多かった。

 


息子が誕生して、初めての海に連れて行ったり。
A美さんの同級生と会ったり。A美さんは、嬉しそうに語ってくれた。
本当に楽しい旅行を過ごした最初の夜。

 

彼は運転と気疲れなのか、いつもより幼い息子と一緒になって眠ってしまった。
二人の間にはさっきまで遊んでいたヒーロー物の人形がいくつか転がっている。
A美さんはそんな二人を微笑ましく感じながら、人形を片付け、翌日の準備をして床に就いた。とても幸せを感じる時間だった。

 


夜も更け。
彼らは眠っている。もう少ししたら、朝日が昇ろうとする時刻が近付いている頃。
急にA美さんは目が覚めたと言う。

 

「疲れているはずなのに、おかしいなー?」と感じながら、横に眠っている息子と彼へ目をやった瞬間、A美さんは自分の目を疑った。

息子の向こう側にいる彼が仰向けになり、眉間にシワを寄せて眠っている。
いつものごとく、布団類をめくって眠る彼に苦笑いしたA美さんは瞬間、凍りついたと言う。

 

え!?


疑った。
A美さんの目に映ったのは、彼の頭の上位に正座している白い着物姿の女。
その女は真上から彼を覗き込むようにして、何やらブツブツ呟いている。
明らかにこの世の者ではなかった。

 

「ちょ、ちょっと・・・」
A美さんは声にならない声を出そうとした。

 

女は黒くて長い髪をしていた。
どんどんその顔を彼へ近づけて行く。
何も出来ずに、ただただ光景を見つめるしかないA美さん。

 


「ぬぁあああああああああっ!」

 


彼が急に大声で叫んで、飛び起きた。
白い着物姿の女は、その大声と共に消えた。
どれだけの時間が流れたのか分からない。
A美さんは、全身汗だくになっていた。

 

「いってぇー・・・・」

 

彼は胸を押さえながら、起きるとそう呟いた。

 

ビックリするA美さん。
彼は胸を押さえながら、起きた。

 

ビックリするA美さんに彼は「何なんや?この旅館は・・・」とたずねたが、A美さんは何も言えなかった。

 

そして、それがA美さんの見た最初で最後の不可思議な光景で。
A美さんと彼との最後の思い出になった。


チューハイを持ったA美さんは
「やっぱり・・・アレよね。幽霊って白い着物なんだな、って思った」
と、グビグビと飲み干した。

 

終話