ジェンダフリー企業戦士【ひとりで百物語居酒屋】

一人でコチコチとやっていた【ひとりで百物語】が、ネット上では【ひとりで百物語居酒屋】へとなりました。

【ひとりで百物語居酒屋】第5話・堺の企業ビルの怪?

【ひとりで百物語居酒屋】第5話・堺の企業ビルの怪?
2016-04-14 15:21:44
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今日は解禁になった話を書こう。
彼女と言うか、彼と言うか。僕と同じ類の人間…古い友人の話。
今から15~6年前の話である。
当然、友人のマサやんからは許可をもらい、書かせてもらえるようになった。

大阪の堺市と言う場所にある企業ビルに、当時のマサやんは勤務していた。

僕は企画課、マサやんは総務課に所属しており、斜め向いの席。
毎週、毎週のイベント集計に追われる。何だかんだと書類に追われるマサやん。二人とも当時は新人だった。
毎日が残業で、人がまばらになる頃になると僕たちは話し始める。それが平日の光景。

 

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そんなある日。
マサやんは少し白い顔をして、夜の10時を回った頃に自席へ戻って来た。
夜の8時過ぎからが本番。新人ゆえの現象だ。

「どこか具合でも悪いん?」
僕は集計表を片手に話し掛けた。
「ううん。」
そう答えたきり、マサやんは無言のまま書類作成の業務に入る。

数分の時間が流れ、僕はチョット心配になった。
「はい。」
机の引き出しのお菓子箱から飴を取り出し渡す。
「今日ってもう帰る?」
チラッとマサやんが僕に言う。
「あぁ、集計表を会議用にコピーしたら、帰れるで。」
そくささと、僕はコピー室へ向かう。
「じゃぁ、私もこの書類書いたら帰れるから、急ぐね」
「はいはーい。」
僕は適当な返事をして、コピー室へ。

余談だが・・・当時は二人共、女性として生活をしていた。

コピーも終わり、ホッチキス止めも終わった僕はまだ何かを書いているマサやんに言葉をかけた。
「これでもう出れるから…トイレ行くわ♪」
「え?あ…うん。」
「何?連れション?」
僕は笑いながら、トイレへ向かった。

 

この妙なマサやんの様子で、気付けば良かった。と後から悔いることになるとは…この時、僕は予想もしなかった。

 

普通にトイレを済まし、個室のドアを開けて出ようとした瞬間。
ドアの前を人が通る気配がした。
内開きのドアなので気に留めることもないのだろうが・・・。とりあえず、ドアを開ける勢いを抑え気味にした。

 

「ん?」
心の中で、疑問符が浮かび上がる。
それはそうだろう・・・そのオシャレでオフィシャル女子トイレには自分だけで、誰もいないのである。
疑問符を頭の中に浮かばせて、個室から出て手を洗う。

 

ジャー・・・・・

 

1つ挟んで、横の水道が出ている。
「ん?」
無論、そこには誰も立っていない。

 

ブォ~ン・・・・・

 

「ん?」
水道の横にある手を乾かす乾燥機が鳴る。
無論・・・・・そこには誰も立っていない。
でも透明な誰かが・・・・・いる。

 

何となくポケットからハンカチを出して拭きながら、何事もなかったようにスタスタと若干早い足取りで・・・オシャレでオフィシャル女子トイレから出た。
そう。何事もなかったんだ!!
と心で叫ぶ僕は、小心者だと笑って欲しい(笑)。

 

「マサやん!マサやん!!」
小声だけど、大声でマサやんへ話しかけた。
「やっぱ、出た?」
不安と驚きの顔のマサやん。

「アレ?知ってるの?」
「それと会社で、『マサやん』はマズイって(笑)!」
拍子抜けする。
「ちょっと、出てから話そうか?」
とマサやんは書類をファイルへ挟み込んで、片付けた。

 

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「黙ってたけどね・・・・・」
はぁー。とマサやんは溜め息なのか、息を吸い込んだのかして言葉を続けた。
「会議とか長引かない限りは、7時半過ぎたら皆いなくなるでしょ?」
「うっ・・・うん」
「ボーダーラインの時間。次の出勤時間やねん。」
夜の街を歩く二人。
僕の頭の中は「?」で山盛りになった。

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マサやんの話をまとめると次のような話だった。
7時半をボーダーラインにほぼ全社員が退社する。
ただ会議だの締め日だので仕方なく、本当に仕方なく・・・残るのだと言う。
そこのオフィスではいつからがそれが「闇の社則」となり、いつの間にか鉄の掟となっている。

ある時点から新人のうちに諸先輩方が7時までには帰る教育をしているらしい。だから、理由を知らない社員がほとんど。

ほんの数名の起業時からいる役員とお局たち、経験しても退社せずにいる勇者だけが知る・・・見えない世界の働く社員の存在。
ただそれは10人にも満たない精鋭のみが知る。マサやんはその精鋭だった。

 

そして、マサやんはその続きは僕に言ってくれなかった。


ただ僕はそんな話を聞かされ、凍ってしまい、
「へっ、へぇ~・・・」
これが当時の僕から出た、精一杯の答えだった。
無論、僕は残業になる時は7時半までにトイレを済ませるようになった。どうしても・・・の時は、近くのコンビニへトイレを借りに行った(笑)。

当時、僕は期間限定の派遣社員でその期間満了までに、何人かのバイト・派遣・正社員が入った。ただ不思議と残業したヤツらのほとんどが僕よりも先に退社して行った。
皆の退社理由は判らないが、ただ翌日から出社すらしなくなる。
そして・・・僕がそこを去った後すぐにマサやんもそこを退社したと耳にした。

ちなみに、その建物は今も大阪府堺市に現存している。

 

終話